ロバート・デ・ニーロといえばデ・ニーロアプローチなんて言葉もあるくらい演技においては神扱いで映画界においては唯一無比の存在で、
デ・ニーロ出てるからその映画見てみようかって方も多いのではないでしょうか。
けれど十年くらい前に読んだニール・サイモンの自伝「第二幕」(The Play Goes On)には、そんなデ・ニーロでもなかなか作品や脚本家のテイストとあわずうまくいかなかったというエピソードがあり、とても印象的だったので
ここで少し紹介を。
1970年代半ば
ニール・サイモンは「ボガートの宿」という自身が脚本を書いたロマンチック・コメディ映画を親友のマイク・ニコルズ監督と作ろうとしていた。
このころニール・サイモンは「サンシャイン・ボーイズ」が公開され作品がアカデミー賞で三部門受賞した時期。
マイク・ニコルズは「バージニアウルフなんて怖くない」「卒業」「キャッチ22」などがすでに大ヒットしている有名監督になっていた
実現すればこれがふたりで初めてつくる映画になる
(左マイク・ニコルズ、右ニール・サイモン)
マイク・ニコルズはデ・ニーロをその新作「ボガートの宿」のマーシャ・メイソン(当時のニール・サイモンの妻)の相手役に起用した
(ニール・サイモンとマーシャ・メイソン)
デ・ニーロのこの映画での役はオフ・ブロードウエイの俳優
初めて出演した映画が大当たりして大スターになるという設定
デ・ニーロはちょうど3日前に「タクシードライバー」の撮影を終えたばかり。
(以下青字は「第二幕」訳/酒井洋子 から抜粋)
この役での起用は、彼(デ・ニーロ)を私たちの仲間に取り込む絶好のチャンスだと思った。
ジョージ・C・スコットのように大きくもなければ屈強でも見えないのに、私はデ・ニーロに同じような威圧感を覚えた。口数は少ないが、口を開けば人は傾聴した。穏やかに話し、うなずき、しきりに肩をすくめ、時折ふっと笑顔になると目が藪睨みになった。でもなにを考えているのかなかなか読み取れなかった。
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デ・ニーロは扱いやすい俳優で、すぐにこの役に没頭した。この役がどんな服装をするか、どう歩き、どういう態度か、心の中はどうなのか、こうしたことを共演者たちと絡む前にしっかり考えていた。で、この若いブロードウェイの俳優は片耳だけイアリングをしているはずだといって、小道具係にイアリングの手配を頼んだ。(中略)小道具係がトレイにイアリングを乗せて持ってきた。気に入ったのがなくて、またもうひとつのトレイ。デ・ニーロは延々とイアリングの品定めをする。
私の記憶ではまる一日がデ・ニーロのイヤリング探しでつぶれた。
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最初に撮影したシーンはデ・ニーロが家に帰ってきて妻に初めて映画出演の話が来たと伝えるものだった。マーシャの反応は、才能のある夫の出世に狂喜し浮かれはしゃぐはずだった。ところが、デ・ニーロはこの件をうれしくてたまらないという風に言わないのである。どうやら嬉しさとか幸運というものは苦手のようで、その知らせも淡々と、この仕事を受けてよいものだろうかという顔で思わしげに伝えた。こんなセリフ回しでは当然、マーシャは狂喜することが出来なかった。(中略)二、三日撮影しただけで私の書いたユーモアが消えてしまうだろうことがわかった。
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デ・ニーロの演技が悪いということではない。その瞬間の演技は、実際とてもリアルで、とても正直だった。が、彼が喜びを感じていないとしたら、冒頭のシーンは訳がわからなくなる。一生夢みてきた仕事をもらえたのにどうしてこの男は喜ばないのだろうか?
マイクはわたしにこっそり「心配だ」と言った。
で結局こんな調子のしっくりこない撮影が五日間続き、七日後にワーナーの重役ジョン・コーリーとフランク・ウェルズ二人がラッシュを見ることになるんですが。
二人の意見は
(ロマンチックコメディなのに)「暗い!」
ジョン(ジョン・コーリー/ワーナー重役)が笑顔で言った「さあて、たしかに問題だなあ」
「どうしたいマイク?」
「中止しよう」マイク(マイク・ニコルズ)
「いままでのを撮りなおすのか?」フランク・ウェルズ(ワーナー重役)が静かに言った。
「そう。でもデ・ニーロじゃなく。彼は抜群の俳優だが、これはミスキャストだった」
「ロバート・デ・ニーロをクビにする?」
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翌日映画は中止になり、デ・ニーロは自分の役が他の俳優に代わることを知った。むろん彼は激怒したが、運よく私はその時彼の部屋にいなかった。そのニュースは芸能誌や国中の大新聞の大見出しになったのだが納得する人はいなかった。
結局、デ・ニーロの代わりになる人は見つからず、マイク・ニコルズも別の映画に取り掛かりこの映画の企画は七日分のフィルムを残してつぶれることに。
しかし、一度ダメになったこの映画「ボガートの宿」に名プロデューサー、レイ・スタークの救いの手が差し伸べられ別の作品に生まれ変わるのでした。
(レイ・スターク wiki)
再びニール・サイモンの筆が入りもっとロマンチックにもっとユーモラスに書き直され
リチャード・ドレイファスとマーシャ・メイソンの「グッバイガール」として!
というわけでニール・サイモンはこの顛末について
これまでの年月でデ・ニーロに会ったのは二・三回しかないが、あれ以来彼と会うと目をまともに合わせることができなくなっていた。
って書いてあるけど、これ書かれてから15年以上経ってる今はどうなのかな?
(ニール・サイモン2014/87歳)
まあ、でも「グッバイガール」でリチャード・ドレイファスがアカデミー賞の主演男優獲ったから当時のデ・ニーロの心境としては複雑か。
でもきっと上のエピソードもデ・ニーロが若かったから(当時33)こそっていうのが大きいのかも。今ならどんな演技でも望まれればデ・ニーロがやってるっことで面白がって見てくれる人たくさんいることわかってるから余裕でやってくれそうだし、ピアス選びももう一日もかけたりしない気がする
と、ザック・エフロンとの「Dirty Grandpa」やその他、近年の色々のデ・ニーロの姿を見ながら思いを巡らすのでしたw